レストア再開てことで、いろいろネットで調べたりしてたんですが、巷のvespa屋さんも、vintageモデルの再生産が終了し、生き残りを掛けて、piaggioの新車販売継続主体か、旧車の修理を重点に置くか、だいたい二方向に各店試行錯誤されたようですね。
わたしがレストア開始した当時は、ボディのレストアから自社でやってるvespaのショップなんて日本にはまず無かったんですよね。vespaのボディの板金塗装てのは、どこのショップも外注任せだった。お店でやるのはボディから分解して、エンジンとサスペンション周りの修理と、板金屋さんから仕上がってきたボディへの再組み立て。こういう流れだったと思います。それが最近では自社で板金も扱うお店が増えてきたようですね。
でも、前述のように、本来、板金塗装の技術的には決して長けていなかったのに手を出してるものだから、お勉強不足甚だしいショップが多いように感じます。
なんと云っても、旧車のボディのレストアでの一番の懸念は、錆びとりと防腐加工処理について、です。
これに関して、余りにも無知で、稚拙な発想のまま施行されているvespaショップが目につきます。
錆びとりの技術の一つとして、"Sand Brust"という施行方法がやっと日本でもポピュラー化したようですが、これ、実際にやれば判りますが、ミラクルです。まるで塗装のスプレーを吹き付けるように見る見る錆が落とせてゆくんですからね。サンダーなんかで削り取る作業なんて時間が掛かるし、同時に錆びていない健康な地金もどうしても削り取ってしまうから、加工の時間も仕上がりにも雲泥の差が出ます。なので、ブラスト処理することを『売り』にしてる業者があります。
ところが、ですね、ブラストすると、地金が剥き出し状態になります。つまりはまったくの鉄の素地の状態になります。すると、忽ち空気中の酸素と水分に反応して表面は錆び始めるんです。ほんと、これは早いです。まるで施工者の吐く息や汗の水分にも反応するかの如く、の即効性なのです。これに塩分が加われば更に酸化が促進されるのはご存知の通りです。なので、「すぐにプライマーを塗布します」と、ご丁寧に自社のサイトで解説されているショップがあります。
いやいや、ちょっと待て。それじゃいかんだろ……。
実際問題、表面的にあの茶錆は見えていなくても、鉄表面の酸化は空気に触れた瞬間にもう既に始まってしまっているので、それでは不完全なんです。こういう手順でプライマー塗布、上塗り、と進めても、当初の仕上がりは良くても、数年も保たずに錆が浮き出てくるのは目に見えてます。何故なら、塗膜では密閉不可能だから、です。要するに、塗膜には無数の小さな穴があり、そこから空気も水も通すから、です。密着とシール力の高いプライマーは在るには在りますが、高価ですし、完璧ではありません。また、特別にオーダーしない限り、一般的にはそのような塗料はまず使用されてません。プライマーと上塗り塗装で最大限密閉性を高める方法はただ一つ、「できるだけ塗膜を厚くする」です。
では、判り易い例として、新車時の製造ではどうなのか? と、シンプルにおさらいしてみましょう。
まず、第一に、メーカーで使用する鉄板は表面を酸化防止処理されたパネルを使用しています。だから、在庫時も製造時も、無塗装状態でも錆の発生には一定期間猶予があるわけです。それでも、ボディの製造工程の曲げなどの加工で表面の擦れなどは起こり得ますし、溶接などを施した部分などは熱が入ってるから錆び易い傾向が出てしまう。往々にして、後々の錆の発生はそういう箇所から始まるわけです。
とにもかくにも、素地が剥き出しの鉄板なんてものはメーカーの工場では使用されてません。
だから、大前提として、ボディ・レストレーションでは『パネルの表面に酸化防止加工を施さねばならない』ということなんです。これが、鉄板加工の最初の最低限の防腐対策です。
ブラスト処理からそのままの状態でのプライマー塗布では、この大事な工程を完全にすっ飛ばしてしまうわけですから、後々は悲惨なことになるのは目に見えています。これについては、わたしは自分自身でレストア時の実験として実際に試して、よくよく承知しています。ほんと、鉄板をまったく防腐処理しないでその上から塗装すると、錆の発生は早いのです!
だから、こういう手抜きをすること自体、わたしとしては大変な驚きです。
これは、何もブラスト処理時だけに限らず、板金加工時全般に云えることです。ただ、板金処理した箇所には大抵表面を平滑に仕上げる為にパテが入れられます。「ポリ・パテ」てやつですね。ヘタクソな板金屋さんほど、このポリ・パテを厚く盛って下手な地金加工仕事を誤摩化す。しかし、逆説的には、この厚盛りポリ・パテのシール効果で、一定期間は浮き錆は「押さえ込まれている」んですね。しかし、その下の素地の層ではちゃんと日々錆は進行してるんです。なので、ある期間を越すと、表面の塗装諸共パテで埋められたところが「ドサッ」と落ちて錆びた鉄板が現れる……こんな経験をされた方は旧車マニアには多いことでしょう。
パネルの防腐処理を海外のレストアラーの間では"Panel Plep"と呼んでます。単純に「事前処理」ですね。これは、工程的には、液体処理によって科学的に表面を焼く、と云えば伝わり易いでしょうか? つまり、鉄の表面を化学変化させて対酸化亜鉛皮膜を形成させるんです。これは、メッキ処理に似ています。こうしておけば、しばらくはそのまま放置でも錆びません(水に直接濡らすなどしなければ)。
要するに、レストレーションで一旦、亜鉛皮膜表面が剥がされた鉄板が、再度、メーカーが新車を製造するときに近いパネルの状態に戻せるわけですね。だから、ブラストした後は、防腐処理として直ちにこのパネル・プレップをやる。これがプロフェッショナルのボディ・レストレーションの当たり前であり、常識なんです。この液体処理作業は、確かに一工程手間は掛かりますが、使用剤は決して高価なものではありません。
そして、尚、この上から防腐に優れたプライマーなりでシールする、それでも完璧ではありませんが、出来る限りの最低限のボデイ・レストアの処理作業とは、本来はこういうことです。
たぶん、以前にも書いたかも知れませんが、パネルの下地処理って、本当に大事なことなんですよ。だって、使用環境等にも左右されますし、それでも錆は完全には防げませんから。
プロならちゃんと勉強して欲しいと思います。そして、客の立場であるみなさんにも、本当に、正しい認知と知識が広がって欲しいと思います。でないと、高い出費をして後で泣きを見ます。
医者でも信じられない施術やらかして患者を殺したりするでしょ? プロだからって、手放しで信用しちゃダメです。
ボディ・レストレーションをショップに依頼する場合は、プライマー塗布前の防腐処理について詳しく確認されることです。「パネル・プレップ? なんですか、それ?」なんて返されたら、即、踵を返して立ち去りましょう。そのように厳しい眼でショップの認識なり技術なりを判断する。そうすれば、業界的にも技術向上に繋がるんじゃないでしょうか。
あ、ちなみに、一つ前の投稿のHandlebarの無塗装部分がPlepしてある状態です(無論、わたし自身の手で)。
わたしがレストア開始した当時は、ボディのレストアから自社でやってるvespaのショップなんて日本にはまず無かったんですよね。vespaのボディの板金塗装てのは、どこのショップも外注任せだった。お店でやるのはボディから分解して、エンジンとサスペンション周りの修理と、板金屋さんから仕上がってきたボディへの再組み立て。こういう流れだったと思います。それが最近では自社で板金も扱うお店が増えてきたようですね。
でも、前述のように、本来、板金塗装の技術的には決して長けていなかったのに手を出してるものだから、お勉強不足甚だしいショップが多いように感じます。
なんと云っても、旧車のボディのレストアでの一番の懸念は、錆びとりと防腐加工処理について、です。
これに関して、余りにも無知で、稚拙な発想のまま施行されているvespaショップが目につきます。
錆びとりの技術の一つとして、"Sand Brust"という施行方法がやっと日本でもポピュラー化したようですが、これ、実際にやれば判りますが、ミラクルです。まるで塗装のスプレーを吹き付けるように見る見る錆が落とせてゆくんですからね。サンダーなんかで削り取る作業なんて時間が掛かるし、同時に錆びていない健康な地金もどうしても削り取ってしまうから、加工の時間も仕上がりにも雲泥の差が出ます。なので、ブラスト処理することを『売り』にしてる業者があります。
ところが、ですね、ブラストすると、地金が剥き出し状態になります。つまりはまったくの鉄の素地の状態になります。すると、忽ち空気中の酸素と水分に反応して表面は錆び始めるんです。ほんと、これは早いです。まるで施工者の吐く息や汗の水分にも反応するかの如く、の即効性なのです。これに塩分が加われば更に酸化が促進されるのはご存知の通りです。なので、「すぐにプライマーを塗布します」と、ご丁寧に自社のサイトで解説されているショップがあります。
いやいや、ちょっと待て。それじゃいかんだろ……。
実際問題、表面的にあの茶錆は見えていなくても、鉄表面の酸化は空気に触れた瞬間にもう既に始まってしまっているので、それでは不完全なんです。こういう手順でプライマー塗布、上塗り、と進めても、当初の仕上がりは良くても、数年も保たずに錆が浮き出てくるのは目に見えてます。何故なら、塗膜では密閉不可能だから、です。要するに、塗膜には無数の小さな穴があり、そこから空気も水も通すから、です。密着とシール力の高いプライマーは在るには在りますが、高価ですし、完璧ではありません。また、特別にオーダーしない限り、一般的にはそのような塗料はまず使用されてません。プライマーと上塗り塗装で最大限密閉性を高める方法はただ一つ、「できるだけ塗膜を厚くする」です。
では、判り易い例として、新車時の製造ではどうなのか? と、シンプルにおさらいしてみましょう。
まず、第一に、メーカーで使用する鉄板は表面を酸化防止処理されたパネルを使用しています。だから、在庫時も製造時も、無塗装状態でも錆の発生には一定期間猶予があるわけです。それでも、ボディの製造工程の曲げなどの加工で表面の擦れなどは起こり得ますし、溶接などを施した部分などは熱が入ってるから錆び易い傾向が出てしまう。往々にして、後々の錆の発生はそういう箇所から始まるわけです。
とにもかくにも、素地が剥き出しの鉄板なんてものはメーカーの工場では使用されてません。
だから、大前提として、ボディ・レストレーションでは『パネルの表面に酸化防止加工を施さねばならない』ということなんです。これが、鉄板加工の最初の最低限の防腐対策です。
ブラスト処理からそのままの状態でのプライマー塗布では、この大事な工程を完全にすっ飛ばしてしまうわけですから、後々は悲惨なことになるのは目に見えています。これについては、わたしは自分自身でレストア時の実験として実際に試して、よくよく承知しています。ほんと、鉄板をまったく防腐処理しないでその上から塗装すると、錆の発生は早いのです!
だから、こういう手抜きをすること自体、わたしとしては大変な驚きです。
これは、何もブラスト処理時だけに限らず、板金加工時全般に云えることです。ただ、板金処理した箇所には大抵表面を平滑に仕上げる為にパテが入れられます。「ポリ・パテ」てやつですね。ヘタクソな板金屋さんほど、このポリ・パテを厚く盛って下手な地金加工仕事を誤摩化す。しかし、逆説的には、この厚盛りポリ・パテのシール効果で、一定期間は浮き錆は「押さえ込まれている」んですね。しかし、その下の素地の層ではちゃんと日々錆は進行してるんです。なので、ある期間を越すと、表面の塗装諸共パテで埋められたところが「ドサッ」と落ちて錆びた鉄板が現れる……こんな経験をされた方は旧車マニアには多いことでしょう。
パネルの防腐処理を海外のレストアラーの間では"Panel Plep"と呼んでます。単純に「事前処理」ですね。これは、工程的には、液体処理によって科学的に表面を焼く、と云えば伝わり易いでしょうか? つまり、鉄の表面を化学変化させて対酸化亜鉛皮膜を形成させるんです。これは、メッキ処理に似ています。こうしておけば、しばらくはそのまま放置でも錆びません(水に直接濡らすなどしなければ)。
要するに、レストレーションで一旦、亜鉛皮膜表面が剥がされた鉄板が、再度、メーカーが新車を製造するときに近いパネルの状態に戻せるわけですね。だから、ブラストした後は、防腐処理として直ちにこのパネル・プレップをやる。これがプロフェッショナルのボディ・レストレーションの当たり前であり、常識なんです。この液体処理作業は、確かに一工程手間は掛かりますが、使用剤は決して高価なものではありません。
そして、尚、この上から防腐に優れたプライマーなりでシールする、それでも完璧ではありませんが、出来る限りの最低限のボデイ・レストアの処理作業とは、本来はこういうことです。
たぶん、以前にも書いたかも知れませんが、パネルの下地処理って、本当に大事なことなんですよ。だって、使用環境等にも左右されますし、それでも錆は完全には防げませんから。
プロならちゃんと勉強して欲しいと思います。そして、客の立場であるみなさんにも、本当に、正しい認知と知識が広がって欲しいと思います。でないと、高い出費をして後で泣きを見ます。
医者でも信じられない施術やらかして患者を殺したりするでしょ? プロだからって、手放しで信用しちゃダメです。
ボディ・レストレーションをショップに依頼する場合は、プライマー塗布前の防腐処理について詳しく確認されることです。「パネル・プレップ? なんですか、それ?」なんて返されたら、即、踵を返して立ち去りましょう。そのように厳しい眼でショップの認識なり技術なりを判断する。そうすれば、業界的にも技術向上に繋がるんじゃないでしょうか。
あ、ちなみに、一つ前の投稿のHandlebarの無塗装部分がPlepしてある状態です(無論、わたし自身の手で)。